『考えろ。』グローバルで生きるために。

注目

日本たばこ産業株式会社 人事部 課長代理 久野 新吾 様

日本たばこ産業(以下JT)がグローバル企業の最先端を走っていることはあまり知られていない。M&Aを行いJTIという海外子会社を設立し、たばこ販売シェア世界3位。食品や医薬など幅広い分野で活躍をみせ税抜売上高2兆円を超える。今回はJTI勤務経験があるJT人事部課長代理の久野新吾さんに海外で活躍するグローバル人財に大切なものを伺った。実際に久野さんがJTIで働いて一番感じたことは「探究と教養の大切さ」だという。

「以前、ヨーロッパでセーリングボートを使ったプロモーションを行いました。その際、プラン自体はヘッドクオーターによって設計されましたが、各市場間で外装色の印象が問題になったのです。日本では緑色の青信号が存在するように、あまり色に明確さを求めていませんが、海外では違います。ギリシャ人の感じる青とロシア人の感じる青は違い、エーゲ海を思い出す青もあれば、冷戦を思い出す青もあるのです。」

このように色だけとっても問題が生じる中、文化的な問題は多く存在する。そこで大切なのは、各々が、国際教養を身につけていくこと。そのために、なぜを考え、探究できる人こそが、グローバル人財に求められる大切な能力だということだ。

「学生の皆さんには探究、いや、もっと根本的な『考える』ことを大事にして欲しいと思っています。『考える』ということについては、学部などは関係ありません。総合的な学問、言い換えればグローバルで通用する教養=リベラル・アーツ、それこそが重要になるのではないでしょうか。」

将来、JTではグローバル人財という言葉はなくなる。グローバル人財が集う組織で区別をする言葉は必要ないからだ。そして、そこでは考えない人財は必要とされなくなる。

考えろ、さもなくば取り残されてしまう。

 

慶應義塾大学 岩橋

世界と渡り合っていく ー 株式会社 京三製作所

海外事業統括部 営業推進部 理事 石井 宣裕 様

グローバルな市場の一つに、発展途上国を中心として、発電や道路といった社会インフラ市場がある。その中で鉄道・交通の信号システムを専門に海外進出している京三製作所の石井さんにお話を伺った。京三製作所は1950年代より海外進出しており、石井さんはブラジル、香港、シンガポールといった国々の鉄道プロジェクトを手掛けてきた。

社会インフラに不可欠なのは、安定して安全かつ現地の人間が安心できるようなシステムであること。そこで高品質な商品を得意とする日本には強みがある。しかし、日本が海外勢に秀でて必ずしも採用されている、というわけではない。

日本が海外進出する際の、大きなハードルが規格の違いだ。

職人芸のような日本の技術は、品質という良さもあれば、日本以外では通用しづらいという欠点もある。つまり、グローバルへの標準化と日本のこだわりあるものづくり精神をうまくバランスを保つことが重要だということだ。

「海外のビジネスモデルは、『契約主義』。良くも悪くも紙に書き起こしたものしか行われません」。だが、日本のものづくりはこれとは反対の、マニュアルを超えたこだわり、悪く言えばおせっかいな性格が根本にある。「契約主義の中でいかに日本のマインドを広めていくかが、課題になると思っています」

このように語る石井さんに、この仕事のやりがいを次のように語ってもらった。

「“正確”・“安全”という点に関しては、日本は世界一なんですよ。こういったものをいかに世界に採用してもらうか、世界の標準と照らし合わせて提案していく、これは魅力があると思います。信号だけで生きているメーカーだから、ノウハウもある。海外が1、2年で追いつけるものではなく、世界と渡り合って戦える。とてもやりがいのある仕事ですね」

一見、地味で地道な信号メーカーだが、これからは世界で熱く戦っていく人材を求めている、そう強く感じた取材であった。

 

早稲田大学/田中

日本流「維新」をグローバルへ ー 株式会社 日立ソリューションズ

産業・流通システム事業本部 グローバルビジネス推進本部

本部長 中村 輝雄 様

 

「グローバルになればなるほど、価値を生み出せない日本人は捨てられてしまう――― 」

そう言い切るのは、本年4月に日立グループのIT中核企業である日立ソリューションズでグローバルビジネス推進本部の本部長に就任した中村輝雄氏だ。

日本人が捨てられてしまうというのはどういうことか? それはよくよく考えれば自明だという。製造業もITも似たようなもので、一昔前、グローバルと言えば日本の製品を欧米各国へ輸出することだった。それが少し進んで、海外に拠点や工場を作り、海外で作ったものを海外で売るということをやってきた。こうなってくると、日本に金が入ってこない、さらに製品がコモディティ化すれば付加価値がないので、日本に本社を置く必要すらなくなってしまう。かくして日本人は捨てられてしまう。

このような現実に直面する中、IT企業はどうしていくのか? と聞くと、「ITとかそういう区切り方は既に意味がない」という答えが返ってきた。「グローバルというのは、単に日本企業が海外で戦いますということじゃなくて、それぞれの国において必要とされる付加価値=ビジネスモデルを考えなきゃいけないこと。特に日立グループがやっていくのは都市とか、鉄道、電力などの社会インフラの部分になる。そこにはITというのが当たり前にセットになっている。この社会インフラの提供というのは、ほとんど国をどう統治するのかということに似ている。それはまるで明治維新の際に日本が郵便制度をイギリスから丸ごと取り入れたようなものだ。今度は先進国である日本が、日本の社会インフラで各国に『維新』を起こしていく。グローバルで日本が企業活動するためには、そういうことまで考えないといけないと思う。そうしなければ、人口の減少が続くであろう日本のマーケットは収縮していき、死を待つのみだ」

そう語り終えた後、一言、「なんとかしたいなぁ…」と呟いたのがとても印象的だった。静かではあるが、確固とした意志を持ち、本当に日本の10年・20年後を考え走り続ける姿に、自分の心が熱くなるのを感じた。このように、自分の国を思い、熱い心をもった企業人に会ったのは初めてかもしれない。

取材を通して、先進国である日本がやるべきグローバルの企業活動と、それを推進するためには、グローバルだからこそ、自分の仕事と国に対する思いや強い信念が必要不可欠であることを教えていただいたように思う。

 

慶應義塾大学/島

民間警備会社のイスラエル駐在職員 小口さん『中東で奮闘する警備員(サムライ)に見るものは?

「配属先はイスラエルだ」上司からの辞令に、小口さんはガッツポーズをしたという。イスラエルは、ヨーロッパ、中東、アフリカなど数ある赴任先の中で最も不人気な場所の一つ。しかし、小口さんにとっては、そのイスラエルこそが、警備という仕事を真に追求できる場所だと考えていたというのだ。

 

地中海と紅海に挟まれた中東のど真ん中、ユダヤ教が色濃く根付き、聖地エルサレムを抱える宗教国イスラエル。人口約740万人のうち約80%がユダヤ教を信仰し、そのうちの半数近くが世界各国からの移住者であるという。ユダヤ人とパレスチナ人の土地の所有に関する政治問題は明確な解決には至っていない。ヒトの移動が活発になり、誰でも世界に足を運べる現在においてもイスラエルは未知な部分が多くイメージしづらい国かもしれない。

 

「以前に比べて減ったとはいえ、テロはまだまだ日常的なもの」日本とは別次元ともいえる環境の中で、小口さんは、警備のエキスパートとして派遣先の警備体制の管理、地域の治安情勢の把握と報告、要人の警護などに携わっている。また、現地で雇っている警備スタッフのレベルを日本の求めるレベルまで引き上げることも、大事な仕事だ。

 

しかし、マイペースでのんびり気質の現地スタッフたちの警備は、求めるレベルには程遠く、小口さんの任務は現地の人に「警備とはなにか」を叩き込むことから始まったという。 服装を整えること、不動の姿勢を保つこと、裏方に徹すること…。なんだ、そんなことか、と思うかもしれないが、これらを徹底させることが、すべて警備という任務において隙をみせないことへとつながるという。では、マイペースな現地人たちを統制のとれた日本流の警備スタッフへと生まれ変わらせるための「隙が無い」という考え方はどこから生まれたのだろうか。

 

かつて日本では武士(もののふ)の文化が存在していた。封建制のもと武士が領主を支える役割を担っていたのだ。武士には教養が求められ、毅然とした態度であることが好しとされた。また、新渡戸稲造は『武士道』において知行合一の実践とノブレス・オブリージュを基盤とした克己心の形成を説いた。ここからはあくまで私の見解だが、小口さんの指導する警備任務における規律への忠実さにも、日本文化として形成された武士道精神により生み出される隙の無さが根づいているのではないだろうか。

 

イスラエルには徴兵制が敷かれているが、兵役経験者でも日本の警備の視座を理解するのは難しいという。世界を点々としてきたユダヤ民族の「その日暮らし、明日はどうなるかわからない」という価値観が現地の人々に深く浸透するなか、日本の警備員(サムライ)が日本流の警備のいろはの指導に取り組む姿を、伝統的な良き日本文化の輸出と捉えることができるかもしれない。

早稲田大学/田口

 

学生たちが取り組む新たな図書館に見る知の交流とは

「どんなにコミュニケーションツールが多様化しても、一番大事なコミュニケーションは、face to faceのリアルなコミュニケーションであることは変わりません。画面とにらめっこするのではなく、面と向かってコミュニケーションする。集った人々は、ほかのことを気にすることなく、とことん話したいことに集中して話し込める。いずれ、この場が、ひとつの文化発信の場にさえなってもいいのではないか」

そういう思いで運営される「188SALON」という私設図書館がある。場所は、西麻布で、運営するのは学生たちだ。会員制の知的交流サロンとも言えるようなもので、会員たちは、サロン内に設置された本棚に自身のおすすめする本を設置し、サロン内で自由に読んだり、所定の手続きを通すことで本の貸し借りも可能な、そんな図書館だ。

この私設図書館だが、もともとは、公共の図書館や既存の本屋に対する不満からスタートしたのだという。

「公共の図書館は利用者が多すぎる分、本が多岐に渡りすぎているし、古い本ばかり、という欠点がある。逆に本屋は、最新の本があるのはいいのですが、本が多すぎて、よくわからないことの方が多いです。あらためて、自身の本選びを振り返ってみると、親しい先輩からオススメされたものであったり、友人やその他信頼する人からオススメされたものを、手に取ることが多かったりするのですよね。図書館や本屋の良さももちろんあるんです。でも、かゆいところに手が届かないようなそんな不満を感じていました」本を軸にした新しいコミュニティー。そのような新しさを感じる。Amazonによるオートレコメンデーション機能や売れているタレント本を平積みする書籍販売のような、本質を見失いがちな知と離れた読書に対して嫌気がさした若者たちの進もうとする新しい方向なのかもしれない。

本来、これは本選びだけに留まることではない。効率が重視されるがゆえに排されてきた、古くからある知の交流とも言えるようなものは今では失われつつあるのだろう。何でも数の原理を持ち込み、ランキングの思想でもって、本来のface to faceのコミュニケーションを忘れがちな世の中で、こうした回帰行動は、本来の知を取り戻す一歩となり得るのではないだろうか。

筑波大学/古賀